2016年5月23日月曜日

花を見る 5月20日のバレービュー

バンフの町の周りでも意外と高山植物の花が見られるもの。今年の春は暖かくなるのが早くて花の咲くタイミングが読みにくい…。
少しだけのつもりでも写真を撮り始めたら、小一時間はかかってましたね。
深度をとって、花も葉も全体がよく分かるような図鑑風な写真を撮ってみたり、花のクローズアップを撮ってみたり、背景の花色をぼかしてロマンチックにしてみたり…。

ホテイラン (Venus' slipper Calypso bulbosa)が林床のあちらこちらに咲いています。
この花のこんなクローズアップが好きです。

絡みつく適当な木があまりないのにクレマチス(Blue Clematis  Clematis occidentalis)が咲いてます。

沢の流れの近くにはサクラソウの仲間の花が何種か咲いてます。

和名はカタクリモドキといいます。英名の方がカッコいいシューティング・スター。(Few-flowered Shooting Star  Dodecatheon pulchellum)
こちらは見た目もサクラソウ。(Dowalf Canadian Primrose  Primura mistassinica)
全体はこんな感じ。
もう一つ、トチナイソウ(Rock Jasmine  Androsace chamaejasme)
集まって咲く花のクローズアップがかわいいです。

この季節によく見る花の一つ。(Star-flowered solomon's-seal  Smilacina stellata)
クローズアップが難しいのは雄蕊と雌蕊の両方にピントが合わないとこですかね。


もう一つ松の根元に咲く目立たない小さな花。花の後には赤い実ができます。(NorthernComandra  Geocaulon lividum または Comandra livida)

2016年5月13日金曜日

Peyto Lakeへ行ってみる。

記録的な暖かさだった今年の春。レイク・ルイーズやペイトー・レイクといった亜高山の湖も約一ヵ月早く氷がとけました。…となればやっぱり蒼いペイトー・レイクが見てみたい。お天気も良くなってきたので出かけてきました。
一昨日の雪でトレイルが雪で覆われてしまって、わかりにくいことこの上なし。おまけに冬の間に新たに木が倒れて、トレイルはフィールドアスレチック状態です。
それでも湖に出れば、この色が迎えてくれました。

湖の名前の元であるビル・ペイトー(Ebenezer William Peyto)はガイドしているパーティがボウ峠の上でキャンプをしている夜に、独りこの湖畔で過ごしていたといわれます。
峠の展望台から眺める湖ももちろん美しいのですが、水の色が最も蒼いこの時期に湖畔でペイトーに思いを馳せるというのも乙なものではないでしょうか。

ついでにすぐ近くにあるボウ・レイクに咲き始めた花を見てきます。
キンバイソウの仲間(White globeflower :Trollius laxus)
小さいキイチゴの花(Dwarf Raspberry : Rubus arcticus

家に帰る途中で森の中にホテイランがたくさん咲いているのを見つけました。先日撮ったばかりだけど、また寄り道します。
帰路の道にはオオツノヒツジ(Bighorn sheep)の雄が出てきます。
もう一つ、田中ちゃんがブログに載せてたクマゲラ(Pileated Woodpecker)にも寄り道。このまま営巣してくれたらしばらく楽しめそうです。
ペイトーの水で淹れたコーヒーはおいしい。

2016年5月12日木曜日

花の図鑑2 ビーナス・スリッパー

今年の春は記録的な暖かさで、案の定この花もずいぶん早く咲き始めました。59日に撮影。
まだ5月も初旬だというのにこの花もたくさん咲いてます。ほんの数キロ歩いただけですが、ゆうに2000株以上が花をつけてました。


英語での名前: Venus slipperまたはFairy slipperなど。
花の形から名付けられたんでしょうね。ラン科らしいある意味グロテスクな、でもとても可憐な花です。
日本で見られる近縁亜種はホテイランと呼ばれます。丸く目立つ唇弁を布袋様の腹に例えたと言われます。私にはそんなふうに思えませんけど…。

学名:Calypso bulbosa  var. americana
calypsoはギリシャ神話に出てくる蒼穹を支える巨人アトラースの娘で海の女神。“隠匿”という意味があります。Bulbosaはその球根によく似た球茎から名付けられています。世界には4つの亜種があることが知られています。

・バンフの近郊で見られるのはvar. americanaで明るい色(白、黄)の唇弁に黄色の毛がたくさんあるのが特徴です。

・日本で見られるホテイランは、var. speciosaSchltr.) makino で距が唇弁よりも長くはみ出して見えている。また、葉脈の凹凸が激しい。

var. bulbosa は北欧、バルト海沿岸、ロシア、モンゴル、韓国に分布。北海道南部のごく一部と青森のヒバ林に見られる。距が唇弁よりも短いものが多く、ヒメホテイランと呼ばれる。

var. occidentalis アラスカからシエラネバダまでの太平洋岸に分布。唇弁には紫がかった斑点があり、斑ら。毛は白く、まばら。“西方の”という意味のoccidentalisは学名によく利用されています。
他にnothovar. kostiukiae catling というamericanaoccidentalisの交配種がアルバータに見られるようです。

外花被片は3枚の萼片(背萼片と2枚の側萼片)で構成され、内花被片は2枚の側花弁と唇弁からできています。
この花は唇弁がピンク色がかっています。


唇弁の裏側にはいかにも蜜が入っていそうな距がありますが、ランの花には蜜がありません。その香りと花の形で虫(主にマルハナバチ)を誘引して受粉します。

ランの花の雄蕊と雌蕊は合着して蕊柱を形成します。先端には粘着性の黄色い花粉塊がついています。

単子葉類のランの葉はシンプルな平行脈です。日本のホテイランやヒメホテイランはもっと凸凹しています。

花茎と葉柄の元には球形をした地下茎があり、球茎と呼ばれます。花茎の下の苔をそっと剥がすと球茎が見られます。この種の花はとてもデリケートですぐに枯れてしまいますので気を付けて…。
このでんぷん質の球茎は生でも美味しいそうです。残念ながら食べたことはありませんが…。
先住民の中には食用以外にてんかんの症状を和らげる薬としても利用していた地域もあるようです。
園芸的価値の高さから採取されてしまいますが、生育には共生菌が必須であると考えられます。おそらくここロッキーでの共生菌はロッジポールパイン(Pinus contorta)の外生菌根菌だと思われます。


株が集まってパッチ状に咲くことも良くあります。

今回撮影に訪れた場所には珍しい白変種の花がいくつか見られます。赤紫の色の部分がすべて抜け落ちています。葉も少し緑色が淡い色をしています。

白変種の隣には通常の花が咲いています。

おまけ: 他にも花はあったんだけれど、ビーナス・スリッパーでいっぱいいっぱいになってしまいました。かろうじてこの白いスミレ(Kidney-leaved violet
 Viola renifolia)だけ撮りました。



今回は少しばかり気合の入ったものになりました。こんな調子でシリーズは続けられるのか?!


7月3日 追記
花の後、ロッジポールパインの森にはビーナススリッパーの実が…。
少し拡大。